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2023-02-10

【京都】歴史と国、人が混じりあう家

京都で歴史ある平屋住宅の改修と、インテリアデザインのご依頼をいただきました。2021年4月にご相談を受けてから、実に1年半の期間を要した、大きなプロジェクトです。

大切なものを残しながら、いまの暮らしにあわせた住まい

お客さまとの出会いは2017年までさかのぼります。リビングダイニングのインテリアについてご相談をいただきました。生活を楽しむことにとても前向きで、こちらの提案をいつも楽しそうに聞いてくださり、お客様らしい素敵な空間ができあがりました。

硝子建具に囲まれた和室からは日本庭園がパノラマで楽しめる、風流な和室があります

その時お部屋からすばらしい日本庭園はみえたものの、まさか同じ敷地内にこれほどの和室や蔵があるのは知らずにおりました。お客様は4世代にもわたってこちらにお住まいで、受け継いだ住宅やお庭をきちんと手入れされながら大切に暮らしておられます。

その後和室に置く家具や玄関の改修など、少しずつ今の暮らしに合わせて使いやすく、気持ちよく過ごせるようお手伝いをさせていただいてきました。

現状を正確に把握することのむずかしさ

玄関。右に蔵を改装した応接間があり、窓にはオリジナルのステンドグラスも使われています。

今回ご相談いただいたのは、和室がある平屋と、蔵、それらをつなぐお部屋(廊下や洗面所など)の改修でした。この時点で異なる年代の建物が混在しており、平面計画も非常に複雑な建物になっていました。

当初もっとも重要だったのは、古い建物ゆえの構造の不安を解消したい、というご要望でした。平屋とはいえ屋根は重量のある瓦葺、また和室の意匠も開放的かつ瀟洒につくられているが故に、歪みなども生じていました。そこで古くからの友人であり建築家のVERY+BIG+COMPANYさんに共同設計をお願いすることにしました。彼は京都の町家改修なども数多く手がけられているので、ご紹介するのにも安心感がありました。

リビングを東側から見る。中庭を囲んで、本邸、蔵、平屋(今回改修予定)が配置されています。

まずは現状把握から、ということで実測を行ったのですが、これが気が遠くなるほど大変でした。私自身こんなに広範囲を実測したのが初めてだったのもありますが、年代も構造も異なる建物が混在していること、さらに建築的に使える図面をきっちり作る必要があったため、計3日ほど通わせていただき、ようやく全体が把握できました。

解体は驚きの連続でした!

土壁を壊しているので、土埃と音がすごかった

改修はどんな小規模なお部屋でも「解体してみないとわからない」と大工さんは口を揃えていいますが、今回はレベルが違いました。実測の段階で「どうして天井の懐がこんなにいるんだろう」「どうしてここに柱が必要なんだろう」と疑問に思っていた部分が、次々と解き明かされていくのは気持ちのいい体験でした。

階段上部、吹き抜けにする予定の場所に分厚い蔵の壁が出てきました

玄関上部には天井が張ってあり、それを壊して吹き抜けの階段室にしようと計画していました。ところが天井を壊してみたところ、上部に出てきたのが分厚い蔵の壁。以前の改修で、壁の1階部分だけ壊して玄関にしたようです。

木造だと思っていたところから鉄骨の梁が!

そしてそんな分厚い蔵の壁を支えるために、鉄骨のプレートで作られた梁も出てきました!これにはお客様もびっくり。プレートを支えるために、よくわからないところに柱があった理由も明らかになりました。

他にも最重要ともいえる場所の梁が傷んでいたのがわかり、建てつけが悪かった理由も、屋根が歪んでいた理由も次々に解明されていきます。改修が間に合ってよかった。原因がわかれば対策を講じることができるし、軸組の全容が見えたことで細かいチェックもできました。

AFTER -リビング・ダイニング・キッチン

玄関からリビングに入ったところ。和箪笥の朱がアクセントです。
夜の風景。昼間とはまったく違う表情が楽しめます。

今回お客様のご希望は「とにかく明るく、広々としたスペースにしてほしい」ということでした。天井を壊して勾配天井にするイメージは早くからもたれていましたが、大きな一室にリビング、キッチン、ダイニングをどのように配置するかは何度も打ち合わせを重ねた部分です。

また和箪笥などのお持ちの家具とあたらしい家具が共存できるような空間にしたい、というのも当初から伺っていました。今の生活スタイルに合わせて現代の家具を取り入れながら、この家と共に歩んできた家具が気持ちよくなじんでくれるよう、家具のセレクトと色にはこだわりました。

ソファ側から見たリビング

インテリアのイメージとしては「グラデーション」というキーワードが何度も出てきました。和室を代表する和の部分と、蔵を洋風に改装した応接間、LDKはそれらの中間にあるグラデーションのような場であることを意識しました。また色合い的にも、和と洋の素材や家具が混ざり合う中で「グレーのグラデーションで繋げていこう」という方向性も、お客様と建築家、私との間で共有できました。

梁がリズミカルに連なるダイニングエリア。お庭に視線が抜けていきます。

気持ちのいいダイニングスペース。キッチンからダイニング、ソファを置いた「南の間(お庭に面した場所をそのようによんでいました!)」までは10mあります。そんな空間の持つ魅力を強調するために壁にはタイルを張っています。梁や照明、家具がリズムを作ってくれて、軽やかでとても気持ちのいい場所になりました。

夜の風景。明るさにメリハリをつけたことで、それぞれの美しさが際立ちます。

照明はmodulexにデザインを依頼しました。それぞれの場所に必要な明るさを確保しながら、メリハリをつけた照明計画は、店舗も多く手がけるmodulex社ならでは。照明によって、軸組の美しさ、家具のデザインの美しさが引き立ちました。

通称「南の間」、右側の和室と奥のダイニングとを緩やかに繋げてくれています

大きな空間に点在する、年代も国もテイストも異なる様々な家具をまとめてくれているのがタイルの壁です。タイルの採用にあたっては、お客様にイメージをお伝えするのがむずかしく、難航いたしました。でも「絶対に必要なんです!」ということで、最後には(ご不安を感じながらも)お任せくださいました。やはりよかった。お客様にも効果を実感していただき、ほっと一安心。

AFTER -土間・玄関

土間・玄関スペース。パキッとした清潔感があります。

玄関は吹き抜けとし、蔵の存在を際立たせる白い壁としました。以前より明るくなり、広くなった土間のタイルが空間を引き締めてくれています。色数を絞り、直線だけで構成された硬質な場所となりました。お部屋ごとに全く違う雰囲気が味わえるのも、今回うまくいった部分です。

影の表情が楽しめる夜の風景。

ちなみに夜はこんな風になります。十字に配置された照明は、思いがけず出てきた鉄骨プレートを利用したもの。上下に照明を仕込み、玄関全体を明るく照らしてくれています。既存のものを効果的に利用した、建築家の素晴らしいアイディアです!

階段は既存のものを使用し、ブリッジを増設しました。2階へ行く動線が特別に感じられる演出です。

玄関横には下駄箱とクロークを設置しました

真っ白な玄関からトイレや洗面室に抜ける廊下は、濃い色の輸入壁紙を張っています。床が繋がっているので玄関との連続感は保ちつつ、玄関とは全く違った雰囲気を作りたい、とこんなデザインになりました。廊下の幅を広げたことで、ゆったりとした贅沢な場所になりました。

AFTER -トイレ

トイレはエレガントな雰囲気を意識しました

今回輸入壁紙を使ったのは廊下とこのトイレのみ。他との連続性を意識し、和にも洋にも合わせやすい箔を使ったような壁紙を選びました。ところどころに真鍮や亀甲のタイルを使って、優雅で上品な場所になったと思います。

AFTER -洗面室

洗面室。奥にシャワールームがあります。

洗面室は壁も床もタイル張りとしました。タイルが細長いお部屋の流れを感じさせてくれ、広々と感じます。窓がなく暗くなりがちな場所にトップライトを作ることで、昼と夜の表情が異なるのも楽しい空間。部屋の長さを活かした造作の洗面台が、家事室としても機能してくれます。

AFTER -2階 洋室

夜の風景。

一部2階建ての部分があり、寝室兼書斎になっています。ホテルのような非日常感を感じさせ、落ち着きのある場所になりました。カーペット敷にして壁一面の本棚を作ることで、趣味にどっぷりと浸れるような、特別な場所となりました。

書斎スペース。正面の木製建具は既存のものを補修して活かしました。

AFTER -蔵(応接室)

蔵を改装した応接スペース

元々非常に趣のある素晴らしいスペースでしたが、床置きエアコンの設置、床下地の補強、お部屋の雰囲気に合わせてカーテンやカーペットを新調したことでお部屋の快適性がグッと上がりました。

蔵の前の廊下。美しい勾配天井やモザイクタイルが歴史を感じさせます。

「残すべきところは残す」というのが今回の改修の大きなテーマでもありました。打ち合わせやちょっとしたやりとりの中から、お客様の家への愛情がひしひしと伝わり、「それを活かして、最高の状態で残していく」という部分には気をつけました。

【Before】以前の廊下

ちなみに以前の状態はこんな感じです。床板を残したい気持ちもありましたが、家全体の段差を解消するために新しいものに張り替えました。改修によって、天井の意匠や建具の美しさが際立っています。

このブログを書きながら、打ち合わせでお話ししたことや工事中の様子などが思い出され、改めてよくこんなすごいものが完成したものだ、と感慨深い思いです。数々のご経験があるVERY+BIG+COMPANYの江見さんと、どんな難題にも落ち着いて対処してくださる工務店さんがいることは心強く、何度も助けられましたが、それでも私が果たすべき役割を全うすべく必死にもがいた一年半でした。

この家が紡いできた時間とお客様の家への愛情、建物の魅力を最大限に活かしながらあたらしい姿を創出させたいという設計者の想い、工務店の技術とやさしさ、使う人の暮らしをイメージした家具とデザイン、それらが化学反応を起こし連鎖したからこそ唯一無二の家になったんだと思います。

それにしても本当に素晴らしい家です!今回関わらせていただけたことに感謝です。ありがとうございました!

設計 : VERY+BIG+COMPANY一級建築士設計事務所(ベリービッグカンパニー)
設計・インテリアデザイン : DECO-TE 松本 亜希子
照明:株式会社モデュレックス ModuleX Inc.
施工:株式会社 いまむら工務店
写真撮影:沼田 俊之

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